戦いが好きで好きで。
強いやつと戦いたくて。
それで死ねるなら本望だと思っていた。



それでも、漠然と死なないと決めていた。





「今日はもう絶対安静だからな!ゾロ!」

「…わーったよ…。」


無茶をしすぎて、絶対安静を言い渡されることはよくある事。
ベッドに無理に括り付けられるのもしばしば。
チョッパーの顔が怒りに歪むのをぼうっと見ていた。





適当に相槌を打っていたのが分かったのか。





「………剣術の稽古も無しだからな?」

「………マジか。」

「大マジだ!絶対安静なんだからな!」

「………。」


チョッパーは俺の行動を読んで、釘を刺していった。
身体がだるいのは、自業自得。
だから、今日も剣術の稽古をするつもりだったのに。


顔の上に上げた手を見つめる。

握って、開いて。

単純な動作で痺れる手を、力なく布団に埋めた。







〜生き延びる理由〜







「なーに怒られてンだか。」


その時だった。
計ったようなタイミングで、が部屋に来たのは。
水差しと痛み止めらしき粉を持ってきたところを見ると、どうやらチョッパーの差し金らしい。


「…るせぇ。」

「いいじゃない。暇つぶしに来てあげたんだって。」

「そりゃ、どうも。」

「うーわ、嬉しそうじゃないなぁ。」

「まーな。」


不機嫌な俺に構うことなく近づき、ベッド脇の椅子に腰を下ろした。
手渡された薬を飲むと、幾分傷の疼きが収まった。
知らず知らずに溜息が漏れる。



傷の痛みから解放された安堵感と。

…まぁ、暇じゃなくなったこととで。



は俺の包帯を見つめて、呟く。
話すのに寝たままと言うのは気分が悪くて起き上がった。
同時に少し傷が開いたようだった。
血が厳重に巻かれた包帯に滲む。


「ひっどい傷だねぇ、今回も。」

「こんくれぇ何でもねぇよ。」


いつもの事だろ、と返す。
と、はニッコリと笑って近づいた。





「へぇ、ホントに?」





ツン、と包帯の上から傷をなぞる。
ジッと俺の顔を面白そうに見つめながら。
鋭い痛みが俺の肌を這う。


「…………!て、っめぇ…」

「やっぱやせ我慢だ〜。」

「………。」


満足のいく結果を出したのか。
ケラケラと明るく笑うが、とてもムカついた。
眉根に皺が寄るのが、自分でもよく分かる。










痛みの波が引いた所で、反論しようと口を開く。
俺が言葉を発するより早く、が声を重ねる。


「いっつも心配掛けさせないでよね。馬鹿ゾロ。」

「…今のが心配しての行動か…?」

「今は今。いつもはいつも。」

「開き直ンな。」


笑った表情とは裏腹に。
の言葉は真剣そのものだった。

軽く流そうと、頭を小突こうとする。
俺の手は、思いのほか上がらなくて。
痺れたまま、の手の中に落ちた。










そのまま、の手に力がこもる。










「ゾロ。」

「あぁ?」


思いつめたような表情に、慌てて目線を上げる。
俺の手には余り感覚が残っていなかった。
握られている、という感覚すら。





目を逸らした今、の暖かさだけが、2人の繋がりを示す。





は、先ほどとは打って変わって…真剣な表情をしていた。
相当力が入っているのか、両腕が小刻みに震えている。










「あたしをおいて、死んだら許さないからね。」










「…は、ビービー泣いてそうだな。」

「泣かないよ。」

「どうだか。」


キュッと引き結んだ口が、揺れていた。
握り返すことが出来ない手を、もう1つ重ねて答える。
の暖かい手から、体温を奪う。

緩く笑うと、今度は両手を握られた。


「だって、ゾロが死んだら。」







唇が、緩く頬に触れる。

当たった髪から、甘い香りが漂った。















「あたしは綺麗さっぱりゾロの事なんか忘れるんだもの。」















強く握り締められたらしい手から、熱が伝わる。

それより早く。

血管の収縮が。





手に、いや。

俺の身体に。

熱が、戻るのが、分かった。















「覚えておいてなんてやらないから、精々生き延びなさいよね。」

「………。…俺が死ぬと思うのか。」

「冗談。殺したって死なないよ。」


苦笑するに、当たり前だ、と頷き返す。










「早く良くなってね。」

「おう。」


子供にするように、は俺の頭を1撫でして部屋を後にした。

戸の閉まる音を聞きながら、俺は眠りにつく。

此処で死ぬ訳にはいかない。





死ねない理由が、また1つ増えた。

忘れさせないためにも。

鮮明に記憶に残すためにも。

…優しい強がりを、護るためにも。





俺は、また1つ、強くなる。



そのために、今は眠ろう。







***あとがきという名の1人反省会***
リクエストのゾロでござりますv
何ていうかお待たせしてすみません(汗
リクエスト内容が、
「ゾロにべったり主人公さん。
でもゾロが居なくても生きていける感じ」
だったんですが…あ、あれ?何か主人公強い…。
こんなのでよければお持ち帰りください。
くれはさん、1700ヒット有難う御座いましたv

今後とも僕色曜日。及び水上 空をよろしくお願いいたします。
それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。

2006.01.16 水上 空