朝は嫌い。



眠いし、動きたくないし。
早起きなんて到底できっこない。
ベッドは私、 のお友達。むしろ親友。



低血圧な私。
ベッド大好きな私。



よって、眠りを妨げられるのが大嫌い。


ー。さっさと起きんねー。」

「…もう起きたー…。」

「嘘ついても無駄ばい。」

「うー………起きたよ、猛臣ぃ。」

「ん。」


でも。
毎日恒例の目覚まし代わりの電話は大好き。



布団を跳ね除け、窓際へと向かう。
太陽のさんさんと降る表へ顔を出した。
朝だっていうのに暑い。
今日も夏らしい夏だ。
ジリジリ肌が焼けるのが嫌で、それでも一言だけ告げたくて道路に声を投げた。





「置いていかないでね。」

「遅刻したくなかったらさっさと用意ばしてきー。」





隣人兼、クラスメート兼、…片思いの相手。
猪里猛臣は、両手で携帯を畳むと、少しだけ意地悪そうに微笑んだ。







〜あつい、夏の日〜







「お待たせー。」


10分と少し。
女の子にはありえないスピードで用意が完了すると、私は外に飛び出した。
オシャレに時間をかけたいんだけど、眠いから髪だけ巻いて。
少しだけのマスカラをつけて、今日も学校へ向かう。


待たせた時間は少なかったはずだけど、猛臣は夏の暑さに汗を流していた。


少しだけ悪い気がして、自転車に向かって小走り。
ごめんねと緩く笑った瞬間、軽いチョップが頭に飛んできた。





「…またそげんもんで朝飯を済まして…。」


猛臣は溜息と共に自転車に跨る。
しっかり栄養取らないと…と少し小言が続いたが、そんなことは気にしない。
朝は出来れば何も食べたくない。
ついでに、毎朝迎えに来てくれる猛臣を待たせたくない。


「朝からそんなに入らないもん。」

「もん、やなかよ、。大体昼もそれしか食わんやろ。」


一言だけ返事を返して、猛臣の肩に手を掛けた。
程なく自転車は風を切って進みだす。










手に持ったウィダーインの容器が小さく萎んでいく。
ジュルル、と音を立てた容器は、未だに冷たい。
10秒チャージとはほど遠い時間をかけて、私はそれを食べきったばかり。
口が開いて、ようやく反論を開始。


「夜は食べるんだからいいんだもん。」

「あー…道理で最近自転車漕ぐのが大変になったと思っとったとよ。」

「ちょっと、どういう意味よ。」

の体重がぞう…」

「うるさいよ、しっかり運転して!」

「………はいはい。」





いつも通りの朝のやりとり。

自転車での2人乗り。

猛臣が前でこいで、私が後ろに立ち乗りで。

無防備なほど、近い距離。



擦り寄る事は、きっと簡単だ。
でもしない。





あついから。





「猛臣ー…今日も暑くない?」

「夏やけん、仕方なかよ。」

「暑い暑いあーつーいー!」

、五月蝿い。」


後ろでガタガタと暴れる私に、猛臣は柔らかく笑うばかりで。
私は今日もそれに甘えさせて貰ってる。

笑いを堪えてるのか、猛臣の肩が少しだけ揺れる。
と、途端周りが翳った。










「部活が始まるまで貸してやるっちゃ。」










猛臣が後ろを振り向いたから、自転車はふらついた。
いきなりの影を作り出したものを見て、私の心臓もふらつく。



一定速度でいられない。速く、速く打つ。

自転車はもう真っ直ぐ走ってる。

私だけ、未だにぐらぐら、ふらついてる。



あつい。顔が熱い。

猛臣に、見られなくて良かった。


「………もう1つ持ってるんだし、部活の間も貸しててー。」

「………しょうがなかね。」





ギュッと、目深に被った。

猛臣の野球帽。

夏の風が、私の頬を冷やす。





「ありがとう、猛臣。」

「良かよ。後でに美味いもん奢ってもらうけん。」

「食べ物?猛臣らしーわ、発想が。」

「ラーメンとか良かねー。」


2人分の汗を流しながらなお、猛臣は笑う。
夏の太陽がじりじりと肌を焼くのも気にせずに。
私の触れてる肩も、熱くて。
学校帰りのラーメンとか、聞くだけで暑くて。

こんな暑い日には、お礼は冷たいものの方が良いかなって思って。





「取りあえず今はこれで勘弁して?」

「冷たあぁぁぁ!」





肩に下げた鞄から、1つ。
取り出したパックを、猛臣の頬に押し当てた。










「…ウィダーイン…。」

「クーラーボックスに入れてあったから冷たいでしょ?」

「これ、の…。」

「お昼ご飯分はまた別にあるから。食べていーよ。」


流石に転びそうだったからか、自転車は急ブレーキをかけて止まった。
危ない事をした、と反省もしたんだけれど。
返ってきたのは私のお昼御飯を気にする猛臣の顔だけ。



自転車は、また走り出す。





「あ、美味かね。」

「凍らせたらもっと美味しいかな?」

「そげんこつして破裂したらどげんすると?」

「もちろん、猛臣が食べるのさ。」

「振り落として欲しかとね?」

「落ちないよー………ひゃっ!」







長い坂道を、ブレーキ無しで下った。
2人して年甲斐もなく大声を出した。
学校までもう少し。
毎朝の、大事な時間。



急スピードで時が流れていく。
そこにはいつも猛臣が居る。
私は優しい猛臣に依存しっぱなしで…。



それでも、甘えていられる時は甘えていたいって思ってる。



スピードが怖い振りして、肩に腕を回して抱きついた。
怖いん?…悪かったっちゃ。
振りほどく事もなく、腕を支えてくれる猛臣に、私は甘えた。



あ つ い く ら い 、 好 き だ か ら 。







***あとがきという名の1人反省会***
20201ヒットというキリ番からもミラーからも
とてつもなくおっしいニアピンをゲットされた
暁沙奈花さんへ贈らせて頂き…たい…猪里君です。(小声
結構詳しく設定つけて頂いて、ネタ不足の私には
とても助かりました!有難うございます!(ペコリ
お気に召しましたらお持ち帰り下さいー!

それでは、ここまで読んでいただき有難うございました。
今後とも僕色曜日。及び水上空を宜しくお願いいたします!

2006.08.20 水上 空