校門の影から、あたしは顔を出す。


じろじろとあたしを見る男子生徒の目線が痛い。
そんなに珍しいですか、校門前の女の子っていうのは。
遠くから指を指すのは、ちょっと怖いからやめて欲しい。





と、泣きそうになりながら俯いたあたしの上に影が落ちた。

見上げるより先に、大きな手があたしの頭の上に。

グリグリと乱暴に頭をかき混ぜた手の主は、息を切らせていた。







〜にゃんことわんこ〜







。…待ってたのかよ?」

「うん。」


少しだけ咎めるような口調と舌打ち。
顔を上げるとガムも噛まずに眉を顰める芭唐が居る。
部活のユニフォームじゃなく、制服姿で。


「連絡位しろよ。墨蓮が知らせるまで気づかなかったじゃねーか。」

「ゴメンね。すっかり忘れてた。」

「…何しに来たんだよ、一体。」


苦笑する芭唐に引っ張られるようにして、あたしは華武高校を後にした。





野球部のグラウンド方面で練習の音がしたけれど。

芭唐が気にする様子もなく歩くので、聞こえないふりをした。

その代わりに。

掛け違えたボタンの指摘だけはちゃんとした。





隣に並ぶことはせず、あたしは芭唐の少し後を付いていく。
片手で器用にボタンを直す芭唐の背中が。
近くて、遠くて…届かない気がして。
早足で芭唐の隣に追いつくと告げた。


「芭唐、ってさ。」

「ンだよ。」


既にボタンは掛け終わったらしい。
服の上を滑っていた手は、いつの間にかサイコロを掴んでいる。
甘い香りが鼻を掠めたかと思えば。
口にはバブリシャスが放り込まれていたりして。










自由で、器用で。










「にゃんこっぽい。」

「…せめて猫っつっとけ。」

「猫っぽい。」










気まぐれそのもの。









「そりゃどうも。」

「あたしは嬉しくない。」

「…意味わかんねぇ…。」


芭唐は溜息と共に精一杯眉を顰める。
俺、何かした?と、あたしの顔を覗き込む芭唐は優しい笑みを浮かべているのに。
一応、頭を使ってアレが原因か?とか考えてくれているのに。
あたしは、それでも。


「猫って気まぐれだし。」

「自由でいーっしょ。」

「………置いてかれそうで、ちょっと嫌い。」





いつか、芭唐があたしの見えないところへ行ってしまうんじゃないかって。

それは、もう本当はそこまで来ているんじゃないかって。



芭唐は、猫のように、自由だから。



置いていかれそうで怖い。





ギュッと芭唐の手を握る。
暖かい温もりは伝わってくるけれど、それだけじゃ足りなくて。
しがみ付いて、芭唐の制服に染みを作る。



広い胸元に頬を寄せると、芭唐はあたしを抱き返してくれた。

無理やりに顔を上げられると、芭唐は至極楽しそうに笑っていて。















「………俺が猫なら、はわんこな。」


盛大に頭を撫で回したと思ったら、声を上げて笑い出す。
いつの間にかあたしの目元の涙は芭唐の口へと消えて。
芭唐の目元には、笑いすぎて涙が浮かんでは消えた。


「特別ちっちぇーの。」

「…どういう意味?」

「人懐っこいってかなんてーか。」

「…そう?」

「馬鹿みてーに、追いかけてくる。」


再び歩き出した芭唐の後を、あたしは少し遅れてついて行く。
芭唐の広い背中を追いかけて。

と、芭唐はゆっくりと歩みを止めた。
あたしの方に振り返ると、手を伸ばす。





「…たまには止まってやっからよ。」





ニッと笑った芭唐の口元で、バブリシャスが小さく割れた。




「必死で俺の後、ついて来いよ。。」





芭唐は、あたしの名前を呼んでくれる。
あたしはそれ以外に、何を望むというんだろう。

焦れたように一際大きく伸ばされた芭唐の手に、自分のを重ねる。
重なり合う前に、芭唐から触れてきてくれたことが嬉しくて。
思わず涙が浮かびそうになる。





ここに居て、良いんだ。

芭唐の、傍に居るのは。

あたしで良いんだ。





「……………うんッ!」





ぐっと涙を堪えて、精一杯微笑んだ。
上手く笑えたかどうか分からないけれど。
芭唐はまたあたしの頭を撫でる。





「わん、だろ。」

「じゃぁ、芭唐はにゃん、ね?」

「………言ってやんねーよ。」

「気まぐれ芭唐にゃんこー。」

「うっせーよ、わんこ。」





引っ張られてバランスを崩せば、口にはシトラスソーダの味が弾ける。
頬から首まで、芭唐の成すがままに口付けられれば。
あたしの口も、そりゃぁ言葉を失う訳で。
満足そうに笑う芭唐の隣を、顔を赤くして歩くことも出来ず。
少し後ろの低位置に戻って、芭唐の後をついていく。





にゃんこの先導で、わんこは今日もついていく。

気まぐれにゃんこと、人懐っこいわんこ。

案外…うん、案外さぁ。

相性ぴったりかもしれないね。



一緒に居たい気持ちは繋がってる。
それ以上の相性って、ないと思うから。



にゃんこの先導、わんこは付いてく。
たまには並んで、一緒に笑って。





これからも、ずっとずっと、ずーっと。







***あとがきという名の1人反省会***
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…。
2662ヒットの芭唐夢、甘めのリク夢です。
宝条聖華さん!本当にお待たせしてしまって
申し訳ありません(ペコペコ
やっとで書き上げた挙句に短くて…しかも
甘くないとか…もう…(遠い目
苦情返品を寧ろお待ちしています…。

今後とも僕色曜日。及び水上 空をよろしくお願いいたします。
それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。

2006.02.23 水上 空