昔、地球にはヒーローというものが存在した。

それは、普段は人間として生活し、ごく在り来たりな毎日を送っていたという。

そのヒーローの名前は、『ミラーマン』。

2次元の世界から来たヒーローであった。

彼らは、ミラーを見ると変身ができ、悪のインベーダーと戦うヒーローだ。

だが、時代が進んでいくにつれて、彼らの存在は日に日に埋もれていったのだった…。

…彼らは確かに存在した。





週の始まり、月曜日。
ここ、十二支高校で、1時間目から4時間目まで見事に爆睡していた少年はやっとで目を覚ました。
少年の名前は、猿野 天国。
彼女いない暦が地球の寿命を越えると豪語する少年であった。
天国は授業中の居眠り…いや睡眠で凝り固まった身体をほぐしながら呟いた。


「あ〜だりぃ…なんか面白いことねーかなぁ…。」


欠伸と共に吐き出しただけ、という感じの言葉は昼休みの教室で、誰の耳にも聞こえるものではない。
食欲よりも睡眠欲が勝ったらしく、天国はまた机に突っ伏した。


その直後。


「ほぉ〜ぅ…では俺達天国の鬼ダチ様がその願い叶えてやろーじゃねーかぁ…。」

「ぬあ!?沢松、お前いつからそこに!?」

「沢松だけだと思うなよ〜ぅv」

「うぉぁ!?まで!?」


がしっと両側から肩を掴まれ、後ろを振り返った天国の眼に映った者。
それは小学校からの友達以上、恋人以上(ぇ)の鬼ダチ2人の姿だった。


「と、いう訳でv」

「毎日にご不満の天国にはこれを授けてしんぜよう!!」







〜ミラーマン〜







「…なんだこれ…ペンダント…?」


ノリノリの2人が天国に差し出したのは、1つのペンダントだった。





…ネックレスとは程遠い、ペ・ン・ダ・ン・トだった。





天国が訝しげに眉を潜める。
…この万年ギャグ満開男がそうなるくらいに怪しげなのだから仕方ないが。
がとっさに言葉を掛ける。


「天国!それはただのペンダントじゃないんだよ!」

「何!!という事は俺様が着けると全世界のお姉様が俺を好きになるという究極のモテアイテムか!?」


目を輝かせて言ったにつられて、天国も目から本当に鱗を落として返事を返す。
…どういう構造になっているのかお聞きしたい(笑
その様子には深くため息を吐いた、いやむしろ連発した。


「…んな訳ないじゃん。単細胞馬鹿はこれだから…」

「何だと!?…まぁエセハンサムから言われるよりは数段マシだから許すが…」

「はぁ!?エセじゃねーって言ってんだろ!」

「そうよね、健吾に言われるなら音瓶のダブルメガネに言われた方がマシよね。」

までンな事言うんじゃねーよ!!つーかあんな邪道メガネに負けてたまるか!!」

「…ってかそんならこれ何のアイテムなんだよ?」

「あぁ、それはねぇ…」

「フツーにスルーかよ!?俺の存在を否定すんな!!」


沢松の決死のツッコミも虚しくスルーされ、挙句テンポに乗ってサブキャラと比較されていく。
幾度目かの存在否定に沢松が声を荒げた。

その瞬間、の言葉が途切れる。
身を乗り出して話し込んでいた天国も、につられて口を閉じた。
数秒、静寂を守った後、はにっこり笑いながら沢松を指差した。



ビシッという効果音が良く似合うほどの勢いで。



「(面倒な奴ね…)…健吾。はい、説明よろしく!」

「それはだな、ミラーマンに変身するための必須アイテムだ!ミラーマンとは…」


のノリのよさにつられたのか、存在否定解除に喜んだのか、沢松は一気にまくし立てる。
…完璧に後者なんだろう。まぁいい。


「ノリノリだ…な…沢松…。」

「とにかく、正義の味方になれるのよ。実際使ってみた方が早くない?」

「おぉ、そんならどっかに落ちてる悪い奴に試そうぜ。」

「悪者がそんな安っぽく落ちててどうすんの。…取りあえず健吾は放っといて行こ。」

「おっしゃ。」


簡潔にそれだけを告げると、すたすたと2人は教室を後にした。
勿論、沢松に声を掛けることはしなかった。















「…となる訳だ。分かったか?天く…に…?」

「あ、沢松。2人なら結構前に出てったぞ。」


教室に残っていたクラスメイトに声を掛けられる。
本能的に八つ当たりをした沢松が、大声で叫んだのも無理はなかった。


「人が真剣に話してんのに…そそくさと消えてんじゃねぇ――――!!」


…教室に響き渡った声は、昼の喧騒に紛れていく。
直後ハリセンが四方から飛んできたのは、想定内のことだった。
残ったクラスメイトに沢松がボコられたのを、と天国の2人は翌日知ったとか。















「さて…どっかに強盗や放火犯は落ちておらんものか…。」

「最初っからそんな凶悪犯が現れたら大変だっての。それにここ学校だって。」

「まぁそれもそうか。」


さて、沢松を見捨ててきた2人はというと。
校舎内を縦横無尽に歩き回って、悪者を探していた。
いつもはどこぞでカツアゲでもしているものなんだが、探しているときに出てこなければ意味がない。
場の空気を読めない人間たちばかりで困るなぁ、とは可笑しなため息を吐いた。

ですらそうなのだから、天国はもっと酷い。
通りかかった子津に、ちょっと不良に絡んで来いなどと無茶を言っていた。
今はやっとでそれを諦めさせて、校庭を歩いている。
天国曰く、地面に近い方が悪者は落ちているらしい。
はっきり言って意味が分からん。
それを諌めるためにも、は馬鹿でも分かるような説明を繰り返す。


「だからもっとほら…身近な困ったちゃん退治とか…。」

「Hey!じゃねーKavこんなところで会えるなんて…運命感じないKaい?」

「ほら、こんなナンパ野郎を退治して私を助けるとか…って…はぁ!?」

「き…キザ虎!!てめぇいつの間に現れやがった!」


突然の、ズダッっという何だか重苦しい音と共に、くねくねラッパー…もとい虎鉄は登場した。










が見えたかRa、3階の窓から飛び降りてきTav」

「「…化け物…」」










それ以外の何者でもない、そう2人は確信した。

そして、顔を見合わせると、とても楽しそうに微笑んだ。





ターゲット、カクニンシマシタ。






「…それよりvこんなモンキーベイベーと居るより俺と居た方が楽しいZe?」

「…天国、という訳だから変身して早く助けてよ。」

「あぁ、…ってか俺何も知らねーから無理だっつの。」

「あ、そっか。えーとね…説明書によると、自分の姿が映るものを見ながら「ミラー・スパーク」って言えば良いらしい。」

「説明書あんのかよ!!」


虎鉄を無視した会話(もう既に漫才)に、虎鉄が腹を立てたのか、少しだけ声を荒げた。
その手でを引き寄せると、回り込んで顔を覗きこんだ。



天国へ、から、鏡が投げつけられる。



「…てかSa、さっきから何の相談だYo。変身とKa、説明書だとKa…!」

「ミラー・スパーク!!」


その瞬間。
辺りは…いや、天国は光に包まれた。
眩しすぎるほどの光に包まれて、咄嗟に目を伏せる。
…光が収まり目を開けて…そこの光景に3者3様の驚き方を見せた。


「「…なんじゃこりゃァァ!!」」

「リアクション古すぎ、失格。ってかやっぱりウルト○マンそっくりなんだ…。」


は冷静にツッコんだが、残りはどうやら状況についていけていなかった。
…特に虎鉄がそうで、(何でか分からないが)顔面蒼白だった。





…ついでに天国は、自分の意思で身長が変わるのがえらく気に入ったようで、気が済むまで遊んでいた。





「Hey!モンキーベイベー!お前に一体何が起きたんだYo!」

「知るか!俺は何か知らんが、今この時から正義の味方ミラーマンだ、このクネクネ怪人キザ虎が!」

「変な名前つけんじゃNeー!てかネーミングセンス無さ過ぎだろーGa!」

「う…うっせー!とにかく先手必勝じゃァ!」

「天国!頑張れー!マジで助けて!」

もちょっとは未知の生物に遭遇した俺を心配してくれYo―――――!!」


が器用にそれをスルーする。
呆然とした虎鉄に、攻撃を入れるのは容易そうに見える。
天国は、日ごろの恨みを込めて、最大限の攻撃をしようとして………止まった。







「…技とか結局わかんねー…えぇぃ、適当だ!」

「…ミラーキ―――ック!!」

「説明しよう!ミラーキックとは、足の裏に割れた鏡がいっぱい付いてるから痛いのだ!…か。」







天国の技名コールと共に、息ぴったりにが説明書を読み上げる。

…え?技が酷くないかって?それも適当すぎるって?

……しょうがないでしょ、本物見たことがないんだから!(泣





まぁ、それはともかく、ミラーキックは本当に簡単に虎鉄の右頬を捕らえた。
鈍い音が、時と風の間を舞う。





ドゴッ…



「GYAAaaaaaaa―――!!」





クネクネ怪人キザ虎(既に呼び名固定)が、悲鳴を上げたのと同時に天国の変身は解けた。
の側に走り寄ると、クネクネ怪人キザ虎(既に呼…以下略)を倒した際に付着した、頬の砂を拭う。
それを見て、はまたひとつ、太陽のように暖かく微笑んだ。
を、真正面から捕らえた天国が赤くなったことにはは気がつかなかった。


「よっしゃ!無事か?」

「うんうん、センキュー!てか面白いね、コレ。」

「…もっとやりに行くか!悪者退治!」

「うん!」





2人は、同時に駆け出した。
影はやがて学校の外に消えていった。


…いけいけ、我らがミラーマン!!
今日もこの街のどこかで、ミラーマンは平和を乱す悪と戦うのだ!















〜その後〜

今日の全授業を終えた猪里が、校庭を突っ切る頃。
目の端に映った花壇に、親友である虎鉄を見つけた。
涙で作った泥の中に埋もれた人形のような虎鉄を。


「虎鉄?授業までサボったヤツがそげん所で寝てるんじゃなか…よ…?」

「い…猪里…救…急…しゃ…」

「うわぁぁ!!死ぬんじゃなかー!!」


その後、虎鉄はちゃんと病院に搬送された。
ガラスが深々と刺さった虎鉄は、全治2週間の怪我を負ったらしい。





…いけいけ、我らがミラーマン!!(汗
今日もミラーマンは平和を乱す悪と戦う!!
戦うの……………か?







***あとがきという名の1人反省会***
A 様に捧げます、ミラーマンパロinミスフルです☆
A 様のみ、お持ち帰り可能ですv
ついでに返品可能です、苦情ドシドシどうぞ(苦笑

で、ですね。
コレ結構書いてて楽しかったですv特に技考えるところが。
その癖、技が1つで倒されちゃいましたけど。(駄目ダメだなァ
最初は、ピッチャーと戦う!って感じにしたかったのですが、
明らかに話の内容がかみ合わないことに気づいたので、
こういった形にさせていただきました。ご了承下さい。

あんまりギャグっぽくなくなったかもですが、
これからもこのサイトをよろしくお願いいたします。
最後になりましたが、212Hitありがとうございました!
それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。

2005.8.10 水上 空