今年もとうとう冬がやってきたらしい。 4時を過ぎれば辺りは夕闇に包まれる季節。 「寒ーい………。」 「五月蝿いのだ。」 その中を肩を寄せ合いながら歩いていく2人。 「…だって寒いんだもん。」 「…冬だから仕方ないことなのだ。」 「仕方ない訳あるかぁ…。」 白い息が視界に舞う。 カタカタと小刻みに震える肩。 隣を歩く恋人に、鹿目筒良は話しかける。 それは彼なりの思いやりだった。 〜コーヒーブラック・微糖〜 「じゃぁ僕にどうしろっていうのだ、 。」 歩幅は緩めることなく、首だけをそちらに向けて問う。 マフラーに顔を埋めて隣を歩いていた は、ゆっくりと僕に顔を向ける。 相当寒いのが苦手なのだろう、唇までがうっすらと青紫色に染まっていた。 その色に、僕は少々罪悪感を覚えた。 本当なら は今頃悠々と家で寛げていたかもしれないのだ。 それを委員会の仕事がある、と引き止めたのは僕だった。 …だから、この状況を作ったのは僕自身。 多少の罪悪感は、感じない方がおかしい。 だから何か自分に出来ることは、と考えたのだ。 まぁ、…飲み物を奢ったりするくらいの金銭的余裕もある。 そう思って声を掛けたのに。 は予想外の事を言ってのけた。 「制服とっかえて?」 コレが世に言う「想定外」。 それ以外の何者でもない、と僕は眉を顰めた。 制服を取り替える? それは僕に女装をしろといっているようなものだ。 冗談じゃない。 いや、本気なら尚更悪い。 期待のこもったの目から視線を外し、再び帰り路を見つめる。 「嫌なのだ。」 「ケチ。」 「ケチじゃない。」 「だって寒いもん。」 「意味が解らん。却下。」 「ちぇ。」 とはいっても、…隣から聞こえてくる小さな呟きには勝てそうにない。 大体、最終的にに勝ったことは一度もない。 この僕でも、だ。 カタカタと震える身体は、先程よりも確実に冷たそうだ。 手袋を忘れていたは、引っ切り無しに手に息を吹きかけている。 見兼ねて、僕は行動を起こした。 「…これでちょっとはましだろう?だから女装しろなんて言うな。」 の手を捕まえ、自分のコートのポケットにねじ込む。 思っていた以上に冷たかったそれは、僕のポケットの中で確実に熱を帯びていく。 無理に捕まえたと思っていたのに、は僕の手を握り返してくる。 「!子供体温ってあったかぁーいvv」 聞こえてきた声に振り返ると、満面の笑み。 嬉しそうな顔で擦り寄ってきたを直視できなくて、僕は視線を外した。 「黙れ。」 「はぁーい。」 ドキドキとした鼓動が伝わってくる。 自分のものか、のものか。 …それは一向に解らなかったけれど。 筒良は緩みそうな頬を一生懸命に引き締めて、残りの道を急いだ。 …当面の目的は、自分の家である。 「。ちゃんと暖かくして待ってるんだぞ。」 「わかってるー。」 「いつも通りで良いのだ?」 「うん、筒良特製ブラックコーヒーが良いな。」 「分かったのだ。」 小さく頷いて、筒良は部屋を出て行った。 筒良の部屋に1人残されるのは慣れている。 遅くなった時にはいつもこうして家に招いてくれるのだ。 こういう、些細な優しさがあたしはとても好きだ。 「。ほら。」 「あ、ありがと。」 部屋のコタツに足を突っ込み、少し落ち着いた時。 筒良はゆったりとした足取りで部屋に入ってくる。 手渡されたカップが熱い。 まだ手が冷え切っているみたいだ。 コタツの上に置くと、それに合わせて筒良も腰を下ろした。 少しだけ触れた足に、少しだけドキドキした。 「…ほんとにお前はコーヒーが好きだな。」 「うん、好きだよ。…筒良はキライ?」 「僕はこっちの方が落ち着くのだ。」 「ふーん。」 暖かい飲み物を飲みながら、他愛のない会話。 さっきまでの冬特有の冷たい息とは違う。 暖かい、飲み物の湯気。 顔も、次第に緩んでいく。 あたしも、筒良も。 「だからそんなの飲めるが変人に見えるのだ。」 クスクス、小さな笑い声。 嬉しそうにあたしに笑いかける筒良は、かなり……………。 優しい顔をしている、と思う。 「…あたし、高校入るまではキライだったのよ?」 「………じゃぁ何で今は好んで飲むのだ?」 「…そーだなぁ………良くわかんない。」 「そうか。」 これは、自惚れじゃない。 だから、あたしは。 筒良が好きだ。 筒良が、淹れてくれるコーヒーが好きだ。 「あ。」 「何なのだ?」 不意に、さっきの筒良の答えに当てはまるものを見つけて、思わず声を上げる。 しっくりくる答えに笑顔になると、筒良は面白そうに聞き返してきた。 カップを置いて、手をコタツの中に入れる。 暖かい。 「好きだから好きなの。」 そう答えると、筒良は。 「あ、そ。」 溜息をついてそっぽを向いてしまった。 「ちょっと。折角考えたのに酷くない?」 「たいした答えじゃないのだ。酷い訳あるか。」 「何それ。」 折角、考えたのに。 あたしは、しょんぼりと下を向く。 やっとで、良い答えを見つけたのに。 ちょっとだけ、酷い。 そう思っていたら。 「それよりは自分の手を暖かくすることを考えた方が良いのだ。」 「えー?」 「…こんなに冷えてて、何すっ呆けてるのだ。」 コタツの中で温まってきたと思っていた手を、握り締められた。 あたしより大きい手は、………とても心地よくて。 凄く、暖かくて………なんかもう熱いくらいで。 「ッうわぁあぁぁぁああ!?」 ガンッッ!! 「ぃダッッ!!」 「……………え?」 驚いた。 だけだったはずだけど。 そこは、大惨事と呼べる有様が広がっていた。 握られた手に驚いて。 あたしは、そのままコタツを忘れて手を振り上げてしまったようで。 「……………―――……………?」 あたしに被さっていた筒良の手は、思いっきり。 コタツに打ち付けられている、らしい。 うん、凄い音がしたし。間違いない。 2次災害は、コタツの上のコップ。 「ははははぃ!ななな何でしょうかぁ…ッ!」 飲み干してないカップの中身は、四方に飛び散っている。 これを大惨事と呼ばずにいられようか………。 筒良が怒るのも無理はない。 「お前、覚悟はできてるんだろうなァ―――――ッ!!」 「ごッ…ごめん、筒良―――ぁ!!」 その日、辺りには筒良の罵声が響き渡った。 あたしがコーヒーを好きな理由。 それは、筒良に似てるから。 いつもはきつくて、怒ってばっかりで苦い顔。 言葉の角にも棘がある感じ。 なのに…。 たまに見せる優しさは、どうしようもないくらい甘くて。 最終的に、あたしはそのギャップが大好きで。 今では、もう病みつき。 コーヒーブラック・微糖。 それは、鹿目筒良に良く似ている。 あたしは、そう思う。 ***あとがきという名の1人反省会*** 宝条聖華さん!遅くなりまして申し訳ありません! 相互リンクありがとうございます、ということで 相互の鹿目夢をお届けです! 最近寒くなってきたので、鹿目君に暖めて貰っちゃおう! …というコンセプトで書かせていただきましたv こんなもので良ければどうぞ貰っていってくださいv 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。 それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。 2005.12.17 水上 空 |