俺がどう足掻いても、何ともならないかもしれないけど。
それでも、足掻きたいことがある。
気付かないかもしれないけど、護らせて欲しい。
気付いていても、止めないで欲しい。



これは、俺が望んだ未来。



これからは、もっと上手く、君を護るよ。
夢ごと。君ごと。

必ず。





「うわぁ!凄いね、猛臣!本当に一式揃ってる!」

「良かったな、。」





君の未来を護ること。
俺が護ると、小さい頃決めたんだから。







〜姫と愉快な王子達−act.6 糸の切れたマリオネット−〜







「ね、ね。これ着てみても良いかなぁ?」

「あぁ。きっと似合うけん、はよ着てみー?」

「うんっ!じゃぁ着てくるね!」


牛尾さんから送られてきた荷物は、既に家に届いていた。
どうやったのか、きっちりと家の中に荷物はあった。
まぁ、そこが牛尾さんの力といったところか。



俺の溜息には気付かなかったは、荷物を覗いて嬉しそうだ。
早速見つけた制服を手にとってはしゃいでいる。

その姿がどうしようもなく可愛いのは事実なんだけれど。
嬉しそうにはしゃぐ姿は、いつ見ても飽きないんだけれど。
着替えに行ったが隣の部屋に消えるのを確認して、俺は頭を抱える。





どうして、俺は。





「…結局、護れんかったっちゃ………。」





いつもいつもいつも。
護ると決めたはずなのに。
たった1人の妹すらも、護れないんだろう。










「こげん兄貴…兄貴じゃなか………。」










敵う訳がないと、知っていたとしても。
1番大切なものを危険に晒すなんて。



こんなの、兄貴なんて言わない。
兄貴なんて、言えない。



握った手は、爪が食い込むほど白く。
小刻みに震えるそれが、何故か俺の心を酷く傷つけた。















「猛臣ー!見て見て!」


明るい声に顔を上げれば、そこには。
ニコニコ楽しそうに笑っているの顔が。


「似合うー?」


初めて袖を通す制服にはしゃいだ様子が良くわかる。
くるくると、ファッションショーよろしく回ってみては、ポーズをとってみたり。
きらきらの瞳に吸い寄せられるかと思えば、スカートがふわりと揺れて。
十二支の制服を、はもう着こなしていた。

反応がない俺の前にしゃがんで、顔を覗き込む。
音もなくしゃがんだの起こした風。
俺の癖っ毛を、優しく揺らした。


「…よう、似合っとるっちゃ。」

「ほんと!?」

「バリ可愛かよ。」


ニッコリ、笑って告げると。
つられたのか、至極嬉しそうに。
はほんのり顔を染めて無防備に笑う。





胸がキリリと痛む。















「有難う、たけお………」















そんなに、嬉しそうに笑うんじゃない。
もっと、俺を責めてくれれば良いのに。
少しは危機感を持ってくれ。

でなきゃ、もう。















「……………猛臣?」





きつく。





。」

「…どうしたの?」


きっと、物凄く痛いんじゃないかと思うほど。
それでも、止められない衝動と共に。
俺はを抱きしめる。


「すまん。」

「え、何が?」

「良いから。」


ビックリしているはずなのに。
拒む事もしないで、俺の声に従う。
素直に身を委ねるの髪が、柔らかく揺れた。





無条件で俺を信頼して。

こんな風に、”男”に抱きしめられた事も、きっと初めてなのに。

震える事もない、

俺の1番大好きで、1番大事な。

妹、という名の女の子。

優しくて、柔らかくて。

楽しそうに笑う顔が、俺は好きで。





「何があっても、護ってみせるけん。」





小学校の時、誓った言葉をもう1度口に出す。



腕を緩めて、顔を覗く。
そこにはやっぱり、にこりと笑った顔があって。
すぐに返事が返ってくる。


「猛臣のこと、ちゃんと信じてるよ。」





小さいときから。
無条件に、俺の事を信じて。





「私ねぇ、猛臣と一緒の高校に通えて嬉しいんだよー。」


ニコニコ笑って、俺の傍に居る。


「やっと一緒に居れるんだから、猛臣ももっと嬉しそうにして?」


俺の口元に手を当てて、無理やり笑った形を作った。





それが、俺をどれだけ動揺させているのかも知らないで。
その笑顔に、どれだけ勇気付けられているか知らないで。





「………そうやね。そう言えば、小学校振りばい。」

「でしょ?」

「俺も…嬉しいっちゃ。」










どれだけ、俺が。
のことを好きかも知らないで。










「一緒に通おうねー?」

「そんなん当たり前たい。」


ゆびきり、と小指を出すと、はまた嬉しそうに笑った。


たまには、こんな事もいいか。
小さく呟いた俺の声に、は小首を傾げた。
その様子がまた可愛くて、俺はひとまず立ち上がる。
部屋を抜けると、後ろから足音1つ。
振り返ればそこにが居る。





俺はそれを見て、明日からの対策を1人、練るのであった。















大切すぎて、人に取られたくなくて。
触れたい気持ちを押し込んで、君の事を隠してた。
俺の言葉を無条件に信じる君は、マリオネット。


でももう。
マリオネットを操る糸はない。
マリオネット自ら、糸を切り、俺の元へ。


俺のために糸を切って、危険を冒して傍に居る。

糸の切れたマリオネットは、自分の意思で俺の元に。





愛おしさと共に、護りたい気持ちが強まったのは。
紛れもなく、事実そのもの。







 





***あとがきという名の1人反省会***
構想だけ練って、何ヶ月も放置してました。
本当にごめんなさい。
何となくサブタイトルは気に入ってます。
「自分の意思で、傍に居てくれる」っていう
猪里君の喜び?を示したかったんですよ。

さて、次はようやく学校に通い始めますよ。
誰を絡ませようかは思案中。
ご意見お聞かせくださると助かります。

それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!!

2005.04.22 水上 空