どこかで見た顔だな。



小さくて特に目立たなかったけれど。
いつしか鮮やかに色がついて。
目にとまることも増えていった。

俺も、あの子も。
テニス部に入って。
名前も知らなかったあの子は。



いつもヒマワリみたいに笑ってる。







〜不燃かもね〜







放課後の校舎裏。


そこに何とも人の良さそうな男が一人。
後に青春学園のレギュラーを担うことになる、河村隆。
今日は待ちに待った仮入部の日である。


青春学園に入学してすぐ、テニス部に入ることに決めた。
そのために入学したようなものだった。
そのためであろうか、河村の足取りはとても軽かった。


「さて…こっちにテニスコートがあったはずだな…。怖い先輩とかいたらどうしような…。」


後半の不安げな物言いとは裏腹に、その声は楽しそうなものであった。


「ここを曲がれば…右だっけ?」

「テニスコートは左だよ、河村君。」


テニスコートの方角を見失っておろおろとしていると、後ろから澄んだ声がした。
振り返るとそこには少女が立っていた。

見た感じでは1年生らしい。
身長は河村の胸にも届かなく、とても小さく華奢である。
顔立ちも、自分よりも年上だとは到底思えないほど幼い。
外見で判断してはいけないと思いつつも、明らかに年上には見えない容貌である。
だが、繊細で、可愛らしく人形のようで。



…護りたくなるような女の子というのは、こういう子なのだろうかと思った。



とっさの判断ができず言葉が続けられなかったが、何とか持ち直して、言葉を紡ぐ。



「あ…ありがとう。でも何で行く場所知ってるの?…名前も。」


河村が名前のことを不思議に思ったのも当然だった。

…初対面の人間に名前を知られているというのには誰だって驚くものである。


しかし、少女は少し淋しそうな笑顔を向けた。


「…まぁ、いいじゃない。行こうよ。」

「あれ…君もテニスコート行くの?じゃぁ部員かな?」

「…まぁ、ね。これから、よろしく。河村君。」


それだけ言うと、少女は河村に背を向けて、テニスコートのほうに向かって歩き出した。
その顔にはもう、笑顔はなかった。



あるのは、哀しみの、瞳だけ。



河村は、どこかその瞳に見覚えがあったが、思い出すには至らなかった。


「よろしく…あ、君の名前は?」


河村の言葉に、少女は足を止めた。
振り返った顔には、満面の笑み。


「…。コートに、着いたらわかるよ!」


そう言って、今度は走り出した。


「ちょ…待って!」


ドキドキと高鳴る鼓動を抑えつつ、河村も、それに倣った。





テニスコートに着くと、河村が一番最後に到着したらしく、すぐに自己紹介となった。

先ほどの少女はてっきり女子テニス部に入部するのであろうと思っていたが、それらしい姿はなかった。
1年の自己紹介も終わり、そのまま部活が始まるかと思ったがまだ、自己紹介が残っていた。
マネージャーが新しく入ったという。
監督の後ろからひょっこりと顔を出したのは、紛れもなく、先ほどの少女だった。


です。よろしくお願いします。」


ぺこりとお辞儀をする。
顔を上げるとにこりと微笑む。
大半の部員が息をのんだのが容易に分かった。
それほどまでに、可愛らしい笑みだったのだ。


「あっ…。」


だが、河村だけは。
その場の部員とは違う意味で息をのんだ。











小学生の頃から知っている。





何度も同じクラスにもなっていたはずの少女であった。





「ごめん!!本当に分からなくって…俺最悪だ…。」

「良いよ、飛び切り仲が良かったわけでもないんだし…仕方ないよ。」

自己紹介も無事に済んで、練習が始まってすぐ。
河村は思い出せなかったことを必死に弁解していた。
傷ついているはずなのに、は穏やかに笑っていた。



そういえば、はいつも愚痴も言わずに笑っていたことを思い出した。
とても強くて、前だけを見つめていたことも。


「本当にごめん!!…ほんと…綺麗になってたからわからなくて…。」


後ろにそう付け加えると、はほんのり顔を赤くして微笑んだ。
その顔を見て、少しではあるが河村の表情が和らぐ。


「良いよ。思い出してくれて嬉しいんだから。」

「でも…。」

「気にしないの。河村君は、テニスのことだけ考えてればいいの。ほら、練習サボってると怒られるよ?」

「あ…うん…。」


は強引に河村を納得させると、ラケットを河村の胸に押し付けた。


「はい、ラケット。」

「…ありがとう。
…うっしゃぁ!バーニングぅ!!バリバリ飛ばすぜぇ!!」


ラケットを手に取ると河村は例の如く人格が変わり、そのまま練習へと戻っていった。
はその姿を笑いながら見送る。
河村が無事部活に戻ったのを見て、もマネージャーの仕事に戻る。





と、2人は同時に動作を止めた。
別々の場所にいたが、口を開いたのは2人同時だった。





「…でも何か…まだ忘れてるような気がするんだけど…。」

「…私のこと忘れてたんなら、あれも時効かな…?」





言葉は誰にも届かずに。
風に乗って、千切れて、消えた。

心に残るは、意味は違えど。





―『不燃』の想い。―














***あとがきという名の1人反省会***
…え、えぇ!?
何この微妙な終わり方!!ふざけんじゃないわよこの水上 空めが!!

そう思った貴女…正解です(何が

何だか長くなったので前後編にしてみました。
結果、前編は訳わかんない構成です。
タカさん、主人公さんの事忘れてます。失礼ですね。(お前のせいだ

実はこれ曲ドリだったりします。
Be For Youのヒマワリという曲です。
某アーケードゲームの曲で、明るい曲です。
タイトルとはちょっと食い違うんですけど、これがイメージに一番近かったです。

前編が変なところで切れちゃってるため、後編はすぐアップ予定です。
今しばらくお待ちください。

それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!!

2004.11.19 水上 空