時は18世紀、ロマンシア。

ヨーロッパの片隅…小さな島に、デュラルゴ王国は確かに存在した。
海洋貿易によって栄えたこの国は、小さい領土に世界中の貿易が集う、言わば一大港湾国家である。
その貿易によって持ち込まれるモノは実に多種多彩で、人々はそれを、大いに楽しむのだ。


世界各地の…珍品・秘宝を…。


ただし、それらを狙う者達が居ることも忘れてはいけない…。

現金には一切手をつけず、一級品の秘宝のみを求め、盗む…。
闇で暗躍する、影の狩人達。

…彼らは、"トレジャー・ハンター"と呼ばれた…。










闇の唄 光の唄

〜treasure 1:狩人の唄〜










デュラルゴ王国3の月、ソマリー。
北の国であるデュラルゴ王国にもゆっくりと春が近づいている。
柔らかな日差しに皆心を躍らせ、今年の国の発展を、恵みを願い、ささやかな祭りを催す。


そんな、中。


1人、表街道から足早に去る男が居た。
…長身、グラサン、黒スーツの男である。
片手には何かを持っているらしく、不自然な形で固まっていた。
男は太陽の光を避けるかのように、スッと横道にそれた。
男の入った道は、王国内で最も影を落とす場所…下町のはずれに通じている。





…そう、男はトレジャー・ハンターだったのだ…。





男は目的の店にたどり着くと、ドアに人差し指を押し付ける。
すると、閉まっていたはずのドアの錠が、カチャリ、小さな音を立てて開いた。
鍵を持っているどころか、鍵穴すら見当たらないこの扉。
闇取引を行う店としては、ごく当たり前なのだ。
諮問照合キーというものは。
男は戸を開けると、薄暗い店内に歩を進めた。


「また来たのか、レオン。…で?今日は何を売りにきたって言うんだ?」


店の最奥、入り口の真正面にこの店のオヤジは座っていた。
入り口には…レオンには視線すら向けず、熱心に宝石を磨いてた。
レオンはこの酷い扱いに慣れているのか、一向に気にする様子も無い。
机を挟んでオヤジの向かい側に腰を下ろすと、手に持っていたモノを無言で机に置いた。
訝しげな表情で、オヤジがそれを手に取ったのを確認して、ニヤリと笑った。


「ふっふっふ…はぁ〜はっはっはぁ!!オヤジ!!目ん玉かっぽじってよ〜っく見やがれ!!
これこそは!!王室に200年伝わるという幻の秘宝…黄金の神像じゃぁ!!ざまぁみやがれコンチクショウ!!」

「目ん玉なんぞかっぽじれるか、この阿呆。」


秘宝の鑑定の合間に的確かつ冷静に、オヤジはツッコミを入れた。
そんなオヤジの素晴らしいツッコミすら無視を決め込んで、目を輝かせながら話を続けるレオン。
…どうやらこれが2人のスタイルらしい。
漫才でも見ているようだ。
…オヤジの反応が慣れすぎているところからも推測できる。

…間違いないッ(長○風





「時価1000万ルル(単位)は下らない1級品だぜ!?」

「ほぉ…それはそれは…。」

「こいつを城から盗み出した時のオレってば…「レオン…。」…ん?何だよ?」


武勇伝を気持ちよく喋っていたレオンは、素直にオヤジの呼びかけに応じた。
今まで忙しなく動いていた口を閉じ、オヤジの方へと身体ごと向き直る。
オヤジはそれを見て、いつもは見せないような満面の笑みをレオンに向けた。

…はっきり言って怖い。

そして、笑みを保ったまま一呼吸。
次の瞬間…。







バキッ!!







オヤジは手にしていたもの…もとい今日のレオンの戦利品…を真っ二つに折った。
レオンはあまりにショックだったのか、放心状態のままものすごい勢いで鼻血を噴いた。



…逆か、鼻血を噴いたから、放心状態になった。

…まぁ、そんなことはこの際関係ない。



オヤジは二つになった神像をひょい、とレオンの足元に抛った。
ゴトッっと多少重い音が店内に残る。
と、意識を取り戻したのか、涙を流しながらレオンはオヤジにくってかかった。
胸座を掴んで揺さぶってみたが、オヤジはそれでも冷静を保っているようだ。


「ジジイ!!…人の汗と涙の結晶に何すんだ、ゴルアァァ!!」


言葉が激しくなるにつれ、揺さぶる力も比例していく。
それでも、オヤジは何も言わなかった。
それは、レオンが冷静になるのを待っているようにも見えた。

…ただ単に、舌を噛みたくないだけなのかも知れないが。

オヤジは、レオンの言葉が切れるのを見計らって、ゆっくりとレオンの腕を掃った。
そのタイミングはばっちりだったらしく、レオンは荒い息を繰り返している。
何か言おうという気は無いらしい。
どうしてこんな事態に陥ったか見当の付いていないレオンを見て、オヤジは深くため息を吐いた。

秘宝を指差し、レオンにもう一度、確認を促す。
その先には、案の定、見るも無残な姿になった神像が転がっている。
所々に破片が散らばって、…レオンは見ていられないと言わんばかりに顔を背けた。


「あのなぁ、レオン…。よ〜っく見てみろ?この破片…」


オヤジはレオンの肩を叩きながら、もう一方の手で机に散らばった破片を拾い上げる。

涙目ながらに振り向いたレオンに、その破片を突きつける。

…レオンは、素直にそれを受け取った。

…が、それは黄金色に輝いてはいなかった。

流石のレオンも、あれ?などと呟きながら、その破片を見つめる。





「これはな、木彫りの人形にめっきを吹っかけただけのお粗末な人形なんだよ!
…ったく…大体にして金はもっと重いだろが。手に持ったときに気付け、阿呆!」










間。










「…え?…………………金って、重いのか?」


オヤジの無言の肯定に、レオンは勿論、店のオヤジまでが深く肩を落とした。

それもそのはず。

レオンがトレジャー・ハンターになって早5年。
これでは、トレジャー・ハンターが聞いて呆れるというものだ。


…いや、それでもリアクション芸人としては一流だが。(そこ強調


レオンが金が重い事を知らずにハンターをしていた、という衝撃的事実。
これは、あまりにも重過ぎる現実であった。
暫く、2人ともが何も話す気力も持てなかったほどだ。
重苦しい店内の雰囲気の中、時計だけがいつもと変わらぬ調子で時の流れを示していた…。
























***あとがきという名の1人反省会***
何だか突発的に書きたくなって、始めちゃいました。
オリジナルの連載小説です。
小〜中学校の頃に、友達とやってた交換ノートの中から、
まともそうなものがあったので、加筆修正を施しながら(それでも変)、
もそもそと書いてます。

最近(って言っても3月)引越しの際に出てきたので、
何だか懐かしいなぁと思ってみてたら、
完結せずにノートが止まってたらしく、その後が書いてない。
で、×年越しに現世にリニューアルしてみました。
この×年の間に、私がお笑いに走ったので、当時よりギャグが多めです。

今後ともレオン君を見捨てずによろしくお願いします。
…一番作者が見捨てかけてるのは内緒。

それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!!

2005.8.2 水上 空