カチカチと、時計が時の流れを必死で示す。


己に課せられた使命を、ただ只管に全うするかのように。
己に出来ることは一つしかないのだけれど、それならば。


ただ、それだけを完璧にやり遂げるように。
ただ、それだけを満足にやり遂げるように。


それが己の決めた道なのだから、と。
時計は時の流れを、満足そうに示すのだ。







闇の唄 光の唄

〜treasure 2:道標の唄〜







…などと、時計が思っていたかはいざ知らず。


ショックによって固まってしまったレオンにその音は聞こえていなかった。
ただ、レオンの脳内は時よりも速く、色々な情報を整理していたのだが。
先に金縛り状態から抜け出たのは、店のオヤジの方だった。

大きなため息を吐きながら、偽りの黄金…秘宝を捨てると、レオンに向き直る。
手にしたペンからは、カチカチと新たな音が刻まれる。
何だかそれは酷くミスマッチだったが、音がないよりは安心できた。


「…あのなぁ、レオン。…こいつをどこで手に入れたかは敢えて聞かん。
城から盗んだというならそういう事にしてやる。…2万歩くらい妥協して、な。」

「だから、さっきも言っただろ?本っ当に城から…っ!!」

「あーはいはい…だからいいから黙って聞けや!あ"ぁ?」

「あい、すみません。」


あまりの剣幕に圧倒されたレオンは、今まで座っていた椅子の横に正座した。
オヤジはそれを確認すると、店の奥から大きなゴミ袋(45リットル用)を3つ持ってきた。
それは既に何かが大量に詰め込まれているらしく、パンパンに張っている。
首を傾げるレオンに1つを手渡すと、オヤジはやっとで席に戻った。
手渡された袋は外のビニールが破れないのが不思議な位に、ズシリと重かった。
手に残る感覚に、顔を顰めながらそれを床に降ろす。





オヤジに視線を戻すと、顎で袋を示唆する姿が映った。
どうやら、中身を確認しろということらしい。





レオンは素直にそれに従って…途端泣き顔を作った。
ゴミ袋の中には、今までにレオンが持ち込んだ宝…もとい、ガラクタが容赦なく放り込まれていたのだった。


そのまま、顔を上げると、オヤジの冷たい視線とかち合った。
居心地の悪い空間に、レオンの心臓は早鐘を打つ。
…が、心の奥底で鳴り響く警告音が、目を逸らすことをさせなかった。
オヤジの口元に、視線が吸い付いたかのように。
冷や汗が滲んだシャツがぴったりと背中に張り付いたまま、暫く時間が流れた。










「重要なのは、だ。お前には秘宝をみる目が皆無って事だな。
それ見て分かれよ。お前のは全っ部!2束3文のガラクタばっかりだってよッ!!」

「…な…中には…さ、1つくらい価値のあるのも…ある…かもよ?」


レオンが泣き顔から無理に笑うと、オヤジは横目でギロリと睨んだ。
射すような目線に慌てて真剣な表情を作ると、オヤジはまた話を進める。
煙草を燻らせたり、机をコンコンと叩いている所を見ると、かなり不機嫌なのは分かる。

…が、レオンはまだ最悪の事態までは想定していなかった。
次の瞬間にはごくあっさりと言われるのだ。
全業界で恐れられている…あの言葉を…。


「な・い・ん・だ・よ!今まで取引してきてたったの1つとしてな!」

「う………つ……次っ!次、頑張るからよ……ッ!」

「黙れ、このリアクション芸人。……悪いが今日でお前との取引は辞めさせて貰うぞ。」


切れ味鋭くツッコんだ所で、一方的にオヤジは取引の終了を告げた。
もういらねぇな、等と呟きながら、指紋照合キーの削除を始めた。
テキパキと作業を続けるオヤジは、もうレオンに向き直りはしなかった。
対するレオンはというと……湖でも作るかという勢いで涙を流していた。
既にミイラになりかけているから、身体にもう水分は残っていないのだろう…。





足元に侵入してきた水に、オヤジは眉を顰める。
…いや、実のところ、その所業全てに、かも知れない。

…普通、トレジャーハンターは取引先の店を数件持っているのが常だ。
だからレオンもそれには外れないと考えていたのだ。
なのにこの大仰なリアクションは何だろうと。
少々手厳しい言い方はしたが、商売人としては懸命な判断だ。
人情だけでお飯は喰えないのだ。
ガラクタに金を払っている暇はないのだから。





奥に忘れ物をしたことに気付いて、オヤジは席を立った。
立ち止まって、歩き出すことは出来なかった。
…足に急激な重みが圧し掛かってきたのだから。
背筋が凍りつくような感覚に見舞われながら、オヤジはゆっくりと振り返る。
その瞳に映ったのは。







今にも枯れそうな涙を止めようともせず、縋り付いたレオンの姿だった。







「そんな事言わないでくれよ、オヤジぃ――――――ッ!
もう俺と取引してくれるトコ此処だけなんだから―――――ッ!」

「……はぁ!?おまえどんっだけ余所でガラクタ売ってんだ!」

「お願いだから―――――ッ!あたいを見捨てないでぇ―――――!!」

「だぁもー!!人の服に鼻水付けんじゃねぇ!!さっさと出てけやコンニャロー!」

「い――や――だ――!!捨てないでぇ――!!」


足元にしがみ付いたまま一向に離れないレオン。
力づくでそれを引っぺがそうとするオヤジ。
…レオンはそれに抗って、接着剤でくっついたかのようにしぶとく食らいつく。


…と、何だか別れ話が抉れて、テレビに縋り付いてきたカップルの様な光景が広がっていた。


………とまぁ、こんな感じで大乱闘を繰り広げた2人は既に汗だくだった。
汗よりもレオンの涙で濡れた分が多いことは明らかだが。















…何かもう…レオンはアレだ…田んぼに生息している ヒ ル か 何 か か 。



こ ん な 主 人 公 嫌 だ 。(ぇ















レオンの必死さに根負けしたのか、それとも気持ち悪かっただけなのか、オヤジは溜息と共に口を開いた。
…いや、うん、……まぁ…ね、後者ですよ、後者。明らかだよ。チクショウ。


「…しょうがねぇ……。お前に最後のチャンスをやる。だから離れろ。床も掃除しろ。」

「分かりました、親分ッ!」


オヤジの言葉…闇に射した一筋の、希望という光にレオンはピタリと泣き止んだ。
それはまるで玩具を与えられた子供のようであった。
光速で掃除を済ませると、レオンはまたオヤジの前に座った。





…勿論、正座で。





「お前が探すのは…"海の十字架・アクア"だ。価値は300億ルル。
これは、王家の姫が持つものとされているものだ……。」

「さっ…!?…国の国家予算と同じ位じゃねぇか!!それに…その…今の王には娘なんて…」


驚きすぎて、机をぶったたきながら立ち上がったレオンは、脇からの鋭い視線に、ゆるゆると力なく腰を下ろした。
オヤジは、対して気にも留めた様子もなく、それを見ていた。
…それも、そのはず。


現国王は齢40歳を数えたが、未だに妃を娶ってはいなかったからだ。
当然、子供などいるはずがない。…いるはずがないのだ。
それが、善良な国民の見解のはずだった。
……しかし、オヤジは声を潜めることなく告げた。







ごくあっさりと、隠し子だ、と。







「成功で取引再開だ、…乗るか?」

「……………今の言葉、忘れんじゃねぇぞ!!」


それだけを告げると、レオンは一目散に駆け出した。
前を見ずに駆けたもんだから、扉にぶつかって、格好が決まらなかったのはお約束だ。
…とにかく、こうしてレオンは夢のため、"海の十字架・アクア"を盗むことを決意した。
夢のため。
秘宝を求めて…。















旅立てるはずがなかった。

そう、やっとで気が付いたのだ。





名前は知っている、それでも………………手がかりが少なすぎることに。















  








***あとがきという名の1人反省会***
あ〜…もう何て言うか…レオンがアホー。
レオンで、しかもアホー!!(訳分からん
という訳で、ヒルとまで言われた(言ったの私だが)レオン君の物語、第2話です。
何だかんだでやっとで序章?部分が終了した感じです。(不明

それで、気になってる人も居ると思うんですが。
此処の…デュラルゴ王国の単位、「ルル」について。
国家予算は出てきましたが、分かりにくいので日本に換算してみましょう。

日本の国家予算(82兆円くらい?)…まぁ、借金返済の分も含んでますけどね。
それを考えると、1ルル=約273円くらいです。
高ッ!!今更気付いたわ!馬鹿みたいな値段だよ!
これだけ高いとアレなんで、ルルの下の通貨考えときます。(今更か
じゃないと庶民の生活成り立たないよ、うん。

さぁて、第3話は…
「張り切っちゃったよ、レオン君」
「新キャラ、登場?」
「買い食い珍道中」
…の、3本(の予定)です。(サ○エさんか

それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!!

2005.8.15 水上 空