「で…これからどうするよ、俺。」


あれから2時間ほど立った頃。
レオンは、後にした店からほど近い、通りの隅に座っていた。

手がかり無しの状態では、宝を発見することは出来ない。
…たとえ、それが特級のハンターであってもだ。



無いよりはましかと、飛び出してきた店にとんぼ返り。
オヤジに頭を下げて、レオンはやっとで手配書を借りてきた。
黒い紙に大きく書かれた「手配書」の文字。
その下に、デカデカと書いてある似せ絵。







………それは、レオンが今まで見てきたものとは、まるで別の。







光に満ち溢れた、本物の宝だった。







闇の唄 光の唄

〜treasure 3:激励の唄〜







知らず知らずに溜息が漏れる。


「こんな…なぁ…。」



こんな、宝。ありかよ。



建物の脇に背を預けて、力を抜く。
…否、抜いたというよりは…抜けたに等しい。
脱力した手の内で、手配書はまだ開いている。
店の影に居るというのに…似せ絵は、似せ絵であるのに…輝いて見えた。





まるで、自分には触れられないもののように。

しかし、触れられないものだからこそ。

神々しく、輝いて見えた。





「あるところにはあるんだよなー…。」


一際大きな溜息だけを残して、レオンは立ち上がる。
案外几帳面に手配書を畳むと、その行為とは裏腹に強くポケットにねじ込んだ。

長身の影が、店の影から離れる。
あたりはそろそろ夕刻であると言うのに。



その影はとても小さかった。

その瞳は、光を失っていた。

無邪気な子供の声の響く路地を、音も無く歩く。















帰り道。

家まであと数メートルというところにある公園に、レオンは立ち寄った。
公園の中央…噴水の方へと掛けて行く。
そこには年季の入った、焼き栗の屋台が在った。



今までの落ち込んだ雰囲気はどこへやら、その足取りは軽い。
よって、屋台の店主に掛ける声も、明るく、大きかった。





「おばちゃーん、焼き栗くれー!」

「あいよ、って…あぁ、レオンちゃんかい。」

「おうともよ!」


馴染みの女店主に答えるレオン。
サングラスの下から明るい笑顔を覗かせる。
底抜けに明るいその笑顔に、女店主もつられて笑った。
ケラケラと豪快な笑い声が辺りに響く。


「相変わらず元気だねぇ。無駄に。」

「おばちゃん酷ぇ!!っつーか無駄じゃねぇ!」

「お財布もそのぐらい元気だとこっちも助かるんだけどね?」


手際よく焼き栗を大袋に詰めながら、女店主は言う。
…今回ばかりはツケないように、と釘を刺したのだ。
詰め終わったばかりの袋をレオンに渡す。
同時に一掴み、焼きたての栗を握らせてやった。





渡された大袋は、ホカホカと暖かかった。
レオンの手を、身体を。
じわりじわりと暖めていく。





「今日は大丈夫!えーと、3ルッツだっけ。」

「…5ルッツだよ。」

「えー!ケチー!高ぇー!」

「ケチじゃない。」

「ちぇー…。」


渋々ながらに、レオンは財布から見合った額を支払った。
同時に、ひらり、紙が落ちる。
それは、先ほどしまったはずの手配書だった。
…どうやら、ねじ込んだ時に財布に引っかかっていたらしい。



手配書を拾うと、…しばし考え込んだ末、レオンは再び女店主に声を掛けた。










「…おばちゃん。」

「なんだい、改まって。」

「………コレ、知らねぇ?」


スッと手配書を差し出すと、訝しげな表情で女店主はそれを受け取った。
受け取る時に辺りを確認したのは、流石と言うべきか。
女店主は、裏界隈の暗黙のルールを熟知していた。
声を潜めて、聞き返す。


「これは?」

「次の獲物。見たことねぇ?」

「馬ッ鹿。こんなもんこの界隈じゃ見かけないよ。」

「………だよなぁ。」

「…さっさと栗持って帰んな。」


トッホー…と効果音が付きそうなくらい肩を落としたレオンに、溜息が降ってくる。
…レオンが見上げると、女店主の呆れたような目線とかち合った。



小さく縮こまらせていた身体をうんと伸ばして、女店主はレオンの背中を押した。
前のめりにならないように、必然的に足が動く。
…それほど力強く押された訳ではない。










「………今は、心配してくれる子が居るだろう?」





それはそれは、優しく押されたのだ。





「…ん。」





肩を落とすレオンを、励ますかのように。










レオンが笑って公園を出て行くのを、女店主は笑顔で見送った。















  







***あとがきという名の1人反省会***
え、今何月ですか。知りたくありません(現実逃避
間が随分開いてしまいました。いつもすみません。
やっとでレオン君の物語、3話目のお届けです。

今回、やっと出てきました。ルルの下の単位。
「ルッツ」。コレは大体ルルの10分の1です。
20〜30円程度。コレで一般人が生きれるよorz
そして…新キャラ…予定してた人、出ませんでした。
でも、何だか女店主がよく動いてくれた。それは嬉しい誤算。

レオン君が底抜けに明るいのには何か理由があるんだろうか。
出そうとしていた新キャラはどんななんだ。
それはこれからのお楽しみ。取り合えずはご想像にお任せします。

それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!!

2006.01.21 水上 空