ゆっくりと動き出す歯車。 僕は風を受ける風車のように。 ただ君という風が心に吹いて。 ゆっくり、ゆっくりと、また新たに動き出す。 君に魅せられるのは誰? 僕だけじゃない。 そう、きっと。 君の周り、すべてが。 色を付けていく。 ココロ動かすんだ。 〜姫と愉快な王子達−act.4 姫、争奪戦−〜 練習時間はあっという間に過ぎていく。 誰もが自分の持つ精一杯の実力を出し切り、練習に励んだ。 はニコニコと笑い、手を叩いて子供のように喜んだ。 は投げかけられた言葉に律儀に返事をし、また、凄いですねぇ、と褒めていた。 それに気を良くして、また微笑んで欲しくて。 結果、部員はまた張り切って練習をする。 それを今までずっと繰り返していた。 そうして、現在に至る。 「っ!!早く逃げるっちゃ!!」 休憩に入った直後に突如、猪里の警告が飛ぶ。 叫んだ本人はグラウンドの端だ。 「へっ?」 が声のほうを見やると、そこには声の張本人の姿があった。 大根を持ったまま疾走する猪里。 あまりのスピードにフワフワの癖っ毛がストレートに変化している…。 はっきり言って。 必死すぎて怖いです。 マネージャー達は目の前で起きている光景にただ固まるしかなかった。 まぁ、本人は1人訳が分からないといった様子で、頭を傾げていたのだけれど。 猪里の必死な形相が肉眼ではっきりと捕らえられる頃。 はようやく回りを見回した。 「TOSV1!!」 兎丸が自慢のTOSVRで皆に差をつけると、猪里の手から放たれた大根が深々とグラウンドに刺さった。 その際、非常に鈍い音がして葉先部分以外すべてが埋まったことを、ここに特記しておこうと思う。 …流石は新鮮やs(強制終了 …これが俗にいうキャッチアンドリリース☆(違 「ちっ…はずしたっちゃ!!」 「そんなの僕に当たるはずないもんねっ!!VR!!」 悔しがる猪里を尻目に、兎丸は駄目押しとも言える加速の第2段階を発動させる。 そんな時。 「ラビットボーイに負けてたまるかYo!!」 「キザトラ!!凪さんだけで飽き足らずさんにも近づいてんじゃねぇ!!さんと仲良くなんのはこの天国様じゃ!!」 「お前こそ凪から浮気してんじゃねぇYo!!」 「何言ってやッがる!!のハートは俺ッに打ち抜かれるためにあッるんだぞ!!」 面倒なことに、虎鉄、猿野、獅子川の3名も抜け駆け目当てで参戦した。 3人は我先に、と争いながら兎丸の後方数メートルのところを走る。 …ギャーギャーと争ってはいるがそれを感じさせないほどのスピードを保っている。 …人間の欲望…特に色恋沙汰の欲望は怖い。 「誰かさっさとあの4人を止めるんだ!!」 までの4人の距離は縮まる一方。 その代わりに止めようとする後ろとの差はどんどん開いていった。 牛尾キャプテンの悲痛の叫びも空しくグラウンドに響き渡る。 が、もちろんそれに留まらず自分も妨害をしようと試みる。 …素早く手を伸ばした先は、ご自慢のヘアー。 トンガリ部分を抜き取ると、驚異的なスピードで4人目掛けて放った。 しかし、それは途中まで飛んだところでいきなり下に折れた。 そのままサクリと軽い音を立てて地面に刺さる。 「しまった、僕としたことがフォークの回転を掛けてしまったようだね。」 どうやら、握りがフォークの握りになっていたらしいです。 ピッチャーの皆さんが苦労して体得するであろうに…。 そこは流石スーパーユーティリティプレーヤー。 子津が目をキラキラさせたまま、 「キャプテンはやっぱ凄いっす…。」 と今の状況では何か的外れな関心の仕方をしているだけはある。 …じゃなく。 やっぱりそのご自慢のヘアーは取り外し可能なんですね!!(嬉 と、誰もが思った(むしろツッコんだ)のは気のせいではないだろう。 「ちゃん〜♪僕とゲームしよー♪」 「……!!(ムカッ)」 そしてたった今。 先頭を走る兎丸がにダイビングで抱きつこうとした。 お馴染みのTOSVR最終加速の、V2で。 すると。 「うわぁっ!!」 抱きつくより早く、兎丸の足が何かによって引っ張られた。 フルスピードで突っ込んでいた兎丸は、当然の如く勢い良く、顔から地面に着地。 しかし顔面を強打した割に、身体を起こした兎丸は無傷であった。 …普段から散々な目にあって、鍛えられているだけはあるらしい。 打ち付けた顔の土を払いながら、違和感を覚えた足を見やると。 そこには、司馬のMDプレーヤーのコードが絡まっていた。 どうやって、飛ばしたんでしょう…?(汗 「痛いなぁ…何するんだよう、シバくんの馬鹿ぁっ!!」 「……。(キッ)」 「むぅぅ…!!」 頬を膨らましながらプリプリと怒る兎丸。 ヒュッ… その耳元を何かが風を斬る音と共に通過した。 兎丸にも掠ったらしきそれは、鋭利な刃物のようなスピードを保ったまま、獅子川に向かって伸びていった。 兎丸の頬に少し血が滲む。 掠ったモノの正体を確認しようと、兎丸が後ろを振り向くと、それはお馴染みの『アレ』であった。 確かに、伸びていったのだ。 見間違いではない。 そう、…南京玉簾のようにしなやかに、力強く…。 …当たり前ではあるが、皆仰天して『アレ』を放った張本人を凝視している。 そうしている間に、『アレ』は前を走る1人に直撃した。 「ぎゃぁ!!蛇神ッ…卒塔婆を如意棒みッたいに伸ばしてんじゃッねぇ…。」 「これも殿の為也。すまぬな。」 倒れた獅子川に蛇神は、 「南無。」 と付け加えた。 …神業(で片付けていいのか?)…というより、卒塔婆で人を攻撃してはいけません。 これで、残りチャレンジャーは猿野と虎鉄に絞られた。 誰もが厄介な奴等が残ったと心の中で舌打ちをする。 「後2匹雑魚が残ってるのだ!!早く止めないと僕のが危ないのだ!!」 「とりあえずは鹿目先輩のじゃねぇ…。」 「五月蝿いのだ!!犬は犬らしく吠えてれば良いのだ!!食らえ、剃刀!!」 そんな2人を最初に潰しにかかったのは鹿目だった。 自分の発した自己中宣言にツッコまれて不機嫌さを増しながら、懐から取り出したものを投げた。 それはいつもと同じくボール…ボール…? 「うわぁぁああああ!!ほ…ほんとに剃刀投げてるっす〜!!」 …凶器だったらしい。 皆の目に映るのはリンチのときに仕込まれるのに最もポピュラーなノーマル剃刀刃だった。 その場に非難の声と驚愕の声が入り混じる。 「テリブルな!!さんにあたったらどうするおつもりですか!!」 「があぁぁぁぁ!!」 辰羅川が眼鏡を割りつつ鹿目の胸ぐらを掴み、揺さぶる。 …が、当の鹿目は、辰羅川など気にも留めず剃刀の行方を目で追って、にやりと笑った。 「クスクス…僕の剃刀は二枚刃なのだ…。」 そう、楽しそうに笑う鹿目はゆっくりとVサインを作った。 「ぐはぁっ…!!し…かめサン…そりゃねぇZe…。」 直後、剃刀カーブ同様鋭利に折れた剃刀の刃は容赦なく虎鉄に襲い掛かった。 それを見て、皆ほっと胸を撫で下ろす。 に当たらなくて何より、と。 どうでもいいが、皆の虎鉄の扱いが酷くないか…? まぁ良いか。(良くない 「ははは!!残念だったなキザトラ!!」 脱落した虎鉄を尻目に、猿野はどんどん、との距離を詰めていく。 「さぁ〜ん!!俺と仲良くなりましょう〜!!」 皆、あからさまに動揺して、妨害すらままならない。 「だ…誰か止められる奴は居らんと!?」 最悪の結末までのカウントダウンを待つほかない。 「さぁ〜ん!!」 鼻の下を伸ばしながら駆け寄る猿野。 は目の前で起きている惨事に固まってしまったらしい。 最初に立っていた場所から動くことすらせず、その場に立ち尽くしていた。 最悪の結末まで、あと… 5…4…3… 皆が愕然と、呆然と。 …目を閉じる…。 2…1…!! メコッ!! 心のカウントダウンの終了と同時に、鈍い音が響いた。 「ゴチャゴチャうっせぇぞキショ猿!!さんに気安く触れようとしてんじゃねぇ!!」 ドカゴスボコバキィ!! 「ぎにゃあああああぁぁぁぁぁ!!もみじ様〜〜!!」 猿野の悲鳴に気付いた者が目を開けると、そこには瀕死状態の猿野が転がっていた。 その横に、満足そうに手を払うもみじと、を庇う凪と檜を見つける。 「ふん、雑魚なんだからこれに懲りたら二度さんに近寄るんじゃないぞ、押忍。」 どうやら漢・16連コンボが発動したようで。 に被害が及ばなかったことは間違いなさそうだった。 こうして今日の姫争奪戦は死闘の末、優勝者なし(むしろナイトがもみじ他多数)となったのだった。 「凪ちゃん……猿君死んでない?平気?」 「…打たれ強いですから。大丈夫ですよ。」 「馬鹿は死んでも死にきれない…かも…。」 目の前で起こった血生臭い争いに、少々怯えたは多少震えていた。 震えるを、気遣わしげな表情で2人は見守っていた。 少し青ざめた顔でが問うと、それを安心させるかのように凪と檜はにっこりと微笑む。 少しでも、不安が取り除けるように、と。 早くに、笑顔を見せてくれるように、と。 2人の笑顔に、は少々間を置いてから笑みを返した。 が笑ったことで、その場に明るい雰囲気が訪れる。 鳥の声、風の音。暖かな陽射しでさえも。 その全てが、が笑ったことによってこの場に戻ってきた。 色を付けたように周りがまた、動き出す。 そうして、はほんわかとした笑顔のまま、付け足した。 「そっか。でもみんなすごい特技持ってるんだねぇ…。」 「「「「「「「「「「「「「「「(ツッコむところはそこじゃねぇよ、アンタ!!)」」」」」」」」」」」」」」」 今日1日で、これ(ツッコみ)が皆が1番団結した瞬間でした(笑 練習終了後、未だにマネージャー達と話しているに気付いて、猪里はある人物に声をかけた。 呼ばれた人物はとの話を切り上げ、スタスタと近づいてくる。 その人物に猪里はスッと手を差し出した。 「清熊さん、を守ってくれてありがとうっちゃ。」 「当然です。俺もさんは守りたいですから。」 答えるのと同時に、もみじは猪里の手を握り返す。 顔には、勝気な表情が宿っている。 満足のいく答えと行動だったのか、猪里は柔らかく微笑んだ。 「…これからもなんかあったら頼むけん、よろしくな?」 「当たり前っすよ、押忍。」 ちらりと、猪里は目線を逸らしたが、もみじは別段気にも留めなかった。 もみじもそちらを見ていたからだ。 いや、目を細めて、冷やかな目で睨んでいたというのが正しいかもしれない。 その目に映ったのは…。 羊谷と牛尾。 練習後に、何かを話している最中の食わせ者2人だった。 猪里ともみじはまた目線を合わせると、険しい表情のまま無言でしばし見詰め合う。 どうやら同じことを考えているようだ、と意思が繋がったとき。 「猛臣〜!!もみじちゃ〜ん!!」 聞こえてきた声に振り向くと、楽しそうに手を振り、笑うを見つける。 2人は吹き出すように微笑むと、互いの手をハイタッチさせた後、のもとへ駆けていった。 風が運んでくれたもの。 君、という名の淡い夢。 君が僕らにくれたもの。 この日生まれた、恋心。 大好きだから、離したくないよ。 そう想うのは、悪いことデスカ? ← → ***あとがきという名の1人反省会*** あー。書いてて楽しかったです(笑 この連載の本質(のはず)の、ギャグハー要素をやっとで書くことができました。(遅 タイトルまんまの内容です。 pochiは面白かったんですが、皆様楽しんでいただけましたでしょうか…?(ドキドキ しかし、いまだに偏りのあるキャラ構成ですみません。 ご感想、叱咤、要望(このキャラ出さんかい、ゴルァ!!等)お待ちしております!! ラストに毎回ちょこっと載ってる詩のようなもの。 今回はジッタリンジンの「プレゼント」を久々に聞いてて、 イメージとはちょっと違うな、と思いながら、 それでも韻の踏み方が気に入っているので変更しつつ使用しました。(言い訳長ッ!! 曲は別れの曲ですが…これとは比べ物にならないほど素晴らしい曲です。 それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!! 2005.2.2 水上 空 |